
大手化学メーカーの給料は、就職の難しさと求められる専門性に全く見合っていない。これが、両社で働いた私の率直な感想です。
大学院まで進んで専門性を磨き、難しい選考を通って入社する。その先にある給与と、成果が報酬へ反映される仕組みを考えると、私は非常に割に合わないと感じました。
成果に応じて稼ぎたい人、自分で仕事を広げていろいろな挑戦をしたい人には、全く向いていないと思います。
一緒に働く人たちは基本的にいい人で、ミスを責め立てず、チームで仕事をやり遂げる雰囲気はありました。周囲と仲良く、協力しながら働きたい人には合う職場だと思います。
この記事では、公表されている給与・制度の情報を確認したうえで、私が在籍していた時期・職場での経験に基づく意見を書きます。
住友で600万円前後、三井で600万円強。どちらも残業代込み
私が在籍していた当時の残業時間と額面年収は、次のような水準でした。
| 勤務先・職種 | 月の残業時間 | 額面年収 |
|---|---|---|
| 住友化学・研究職 | 60〜100時間程度 | 600万円前後 |
| 三井化学・海外営業・マーケティング | 40時間前後 | 600万円強 |
特に住友化学では、月60〜100時間ほど残業して、年収600万円前後です。専門性に加えて、これだけの時間を働いた結果として、私は割に合わないと感じていました。
私が在籍していた頃の感覚では、管理職に上がるのは30代後半。その手前では、基本給ベースで500万円台という水準でした。残業代が額面年収を押し上げる部分は大きく、働く時間も含めて待遇を見る必要があります。
就職難度と修士・博士の専門性に対して、給料が割に合わない
現在、住友化学と三井化学が公表している平均年収は、次のとおりです。
| 会社 | 平均年間給与 | 平均年齢 |
|---|---|---|
| 住友化学 | 9,585,195円(約959万円) | 42.4歳 |
| 三井化学 | 8,717,118円(約872万円) | 40歳0か月 |
この数字は、管理職を含む幅広い年齢・職種の平均です。研究職や大学院修了者に限った年収でも、若手が入社直後にもらえる金額でもありません。
出典:住友化学 第145期有価証券報告書/三井化学 第29期有価証券報告書
公表されている新卒総合職の初任給は、次のとおりです。
| 学歴 | 住友化学 | 三井化学 |
|---|---|---|
| 学部卒 | 月給289,600円 | 月給280,000円 |
| 修士了 | 月給312,600円 | 月給302,000円 |
| 博士了 | 月給364,200円 | 月給352,000円 |
出典:住友化学 新卒採用募集要項/三井化学 新卒初任給の引き上げ
ここで考えてほしいのが、どれだけの専門性を持った人が、この待遇で働いているのかということです。
住友化学の公式採用情報では、2026年の技術系総合職採用者72人のうち、修士が53人、博士が18人。72人中71人が大学院修了者です。研究・技術系の入口に、これだけの専門性を身につけた人が集まっています。
大学院で研究に取り組む時間、学費、就職するまでの労力。さらに入社後に求められる専門知識まで考えると、私はこの給与水準に納得できません。
「これだけ専門性の高い人が集まり、入社するのも難しい会社で、この給料なのか」というのが、私の実感でした。
私自身、在籍中は寮を利用でき、住居費を抑えられた点は助かりました。その利点まで含めて考えても、就職難度と専門性に対する待遇としては割に合わない、という評価です。
この給与水準になるのは、利益率と事業構造を見れば仕方がない
給与水準を大きく左右するのは、会社が継続してどれだけ利益を生み出し、人件費に回せるかです。難しい選考を通過した人を集めても、事業として高い利益を安定して稼げなければ、給与を大きく引き上げ続ける余地は限られます。
総合化学は、工場や生産設備への投資、設備の維持、研究開発に大きな資金を必要とする事業です。住友化学の2025年度の設備投資は1,216億円、研究費は1,447億円。三井化学の決算資料でも、原料価格や為替、設備の稼働率、定期修理に伴う費用が利益を動かす要因として挙げられています。
出典:住友化学 2025年度決算参考資料/三井化学 2025年度決算概要
三井化学は、賞与を個人業績に加えて、会社の連結コア営業利益に連動させると公表しています。自分が頑張っても、会社全体の利益が報酬に影響する仕組みです。
私は、こうした事業の利益率と継続的な投資負担を考えると、給与の伸びに限界があるのは構造上仕方がないと見ています。会社側の事情として、この給与水準になる理由は理解できます。
働く側としては、専門性を磨き、難しい選考を突破するまでにかけた労力と、その後に得られる報酬を比べて判断したい。その基準で見ると、私は割に合わないと思います。
住友化学を辞めた理由は、研究者として成長できないと感じたから
住友化学を辞めた大きな理由は、顧客とのパワーバランスが悪く、要求されたデータを取る仕事に偏っていたことです。
私が担当していた仕事では、顧客側の要求が強く、言われた条件でデータを取り、それを提出することが中心になっていました。自分で研究の方向を考え、掘り下げていく余地が少ないと感じていました。
忙しく働いていても、研究者として力がついているという実感がない。要求されたデータを取ることに時間を使い続けて、この先、自分はどのように成長できるのか。それが見えなくなっていました。
このまま働き続けても、研究者として成長できないと感じた。それが、私が住友化学を辞めた理由です。
三井化学を辞めた理由は、成果を出しても平均評価だったから
三井化学では、海外営業・マーケティングの仕事で成果を出していたのに、もらえた評価は平均点でした。
それだけでも不満でしたが、さらに納得できなかったのは、勤務態度に問題を感じる同僚と同じ評価だったことです。私の周囲には、次のような行動が見られる人もいました。
- 会議中に居眠りをする
- 就業時間中に妻と私用の電話をする
- 就業時間中にアプリでゲームをする
自分は仕事に取り組んで成果を出している。それでも、こうした人と同じ評価で扱われることが、私にはどうしても許せませんでした。
私が把握している範囲では、そうした勤務態度の同僚に上司がやや低い評価をつけようとしたところ、人事がストップをかけたという経緯もありました。
成果を出しても平均評価。勤務態度に問題があっても、評価を下げようとすると止められる。その状況では、自分が頑張る意味が分からなくなりました。
成果と勤務態度の違いを、評価にきちんと反映してほしかったのです。その納得感を得られなかったことが、三井化学を辞める理由になりました。
人事制度を変えるだけで、成果主義が根づくとは思えない
現在、住友化学は役割・責任、成果、能力・行動を評価して処遇へ反映すると説明しています。三井化学も、2022年4月の人事制度改定で評価の透明性を高め、個人の貢献に応じて賞与を配分する仕組みを公表しています。
出典:住友化学 人材マネジメント/三井化学 従業員エンゲージメント「人事制度改定」
在籍していたときの組織の肌感覚からすると、制度を変えるだけで本当の成果主義を実現するのは、絶対に無理だと思います。
上司が成果や勤務態度に応じて評価しようとしても、組織の側でその差を認めなければ、現場は変わりません。評価項目に「成果」や「挑戦」を加えるだけでなく、その違いを組織が受け入れ、報酬や登用に反映させる必要があります。
私が変化の証拠として見たいのは、成果を出した若手が年次にかかわらず昇格し、相応の報酬と権限を得ている実例です。評価する側の姿勢と、実際の人の登用まで変わって、初めて意味があると思います。
制度を改定したという発表だけで、「これからは頑張った人が報われる」と期待する気にはなれません。
私が経験した組織は、完全なトップダウンだった
私が在籍していたときの実感をそのまま書くと、完全なトップダウンの組織でした。
上が方針を決め、その方針に沿って下が動く。自分の考えを進めるにも、上司や上位者の意向を踏まえ、承認を得ていくことが重要でした。
自分でテーマを見つけ、まず試し、結果を見ながら仕事を広げたい。担当業務の枠を越えて、新しいことに次々と取り組みたい。そういう人にとって、上司や組織の判断を通すことが前提になる環境は、かなり窮屈だと思います。
やりたいことへの熱量があっても、仕事の進め方や速度を自分で決められない。その制約を強く負担に感じる人には、合わない環境です。
人は良く、ミスを責めずにチームでやり遂げる雰囲気だった
私が一緒に働いた人たちは、基本的にみんないい人でした。
仕事でミスがあっても、本人を責め立てるような雰囲気はなく、チームで仕事をやり遂げようとする色が強かったです。これは、両社で働いて感じた良さでした。
周囲と仲良く、協力しながら働くことを大切にする人には、いい職場だったと思います。人間関係の良さや、ミスを責め立てられない雰囲気は、働き続けるうえで大きな意味があります。
私は、その人間関係の良さだけでは埋まらない不満を、成長の機会と評価の仕組みに感じていました。
仲良く働きたい人には合う。成果と裁量を求める人には勧めない
私が大手化学メーカーへの就職・転職を勧めないのは、次のような働き方を求める人です。
- 自分の成果を、給与や賞与へ大きく反映してほしい人
- 年次に関係なく、実力に応じて役割や権限を得たい人
- 担当の枠を越えて、いろいろな仕事に挑戦したい人
- 自分で判断し、素早く試して改善する働き方をしたい人
住友化学では研究者としての成長、三井化学では成果に応じた評価を得られないと感じました。残業時間と専門性に対する給与も含めて、私には割に合わない環境でした。
自分の成果で稼ぎ、自分の判断で挑戦したい人には、私は大手化学メーカーを勧めません。人間関係の良さと、チームで協力して働くことを重視する人には合うと思います。これが、住友化学と三井化学で働いた経験に基づく私の結論です。